甲羅かふら)” の例文
「牛の屁かえ? ふんとうにまあ。——尤も炎天に甲羅かふらを干し干し、あはの草取りをするのなんか、若え時にや辛いからね。」
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
錢形平次と子分の八五郎は、秋日和の縁側に甲羅かふらを並べて、一とき近くも無駄話を應酬あうしうして居たのです。
借金も少しだと困るが身分不相当に沢山になると却つて借金のお蔭で生命がつなげるやうなもんで、虚誕もちつとだと躓くが此位甲羅かふらると世渡りが出来ると見える子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
さうするとおなかの物はすつかりと消化こなれてしまふ。けれどもかめんだときだけにはそれがきかないさうだ。どういふわけかといふと、亀は堅い甲羅かふらを着てゐるから、蛇いちごもきかない。
蛇いちご (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
蒙りませう。逆上のさがるのは有難いが、その代り一張羅は代無しだ、それより少し歩きませうよ、親分。甲羅かふらを干し乍ら、新造を眺めたり、鰻の匂ひを嗅いだり、犬をからかつたり
僕の父の友人の一人ひとり夜網よあみを打ちに出てゐたところ、何かともあがつたのを見ると、甲羅かふらだけでもたらひほどあるすつぽんだつたなどと話してゐた。僕は勿論かういふ話をことごとく事実とは思つてゐない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よく晴れた二月の晝下り、今朝の寒さは忘れてしまつたやうな、南縁の陽溜ひだまりに煙草盆を持出して、甲羅かふらを温ためながら、浮世草紙などを讀んでゐる、太平無事の平次の表情でした。