由比ゆい)” の例文
「何だと?——今の世の中にそんな馬鹿なことがあるものか。もっとも、由比ゆい正雪しょうせつなら牛込榎町うしごめえのきちょうよ、丸橋忠弥まるばしちゅうやは本郷弓町だ、縄張違いだよ、八」
水と空のさかいだけが、ぼっと夜明けのように明るいだけだった。夜の海は、真っ暗にえすさんでいる。常でも浪の激しい由比ゆいヶ浜に、こよいは風がある。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門は扉がついていない古い二本の木の柱で、柱と柱の間から、由比ゆいはまに砕ける波がやみにカッキリと白い線になって見え、強い海の香が襲って来ました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あるいは由比ゆい戸次べつきの謀叛にくみして、たいてい片付いてはしまったが、しかしこればかりでは決して尽きたとはいわれぬので、諸国にはまだ若干の食禄を持って
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その幽光院というのは元和げんな元年の建立こんりゅうにかかるもので、慶安四年の由比ゆい正雪騒動のときまで前後三十年間ほど関八州一円に名をうたわれていた虚無僧寺でしたから
五日の月はほんのりと庭の白沙はくさを照らして、由比ゆいはまの方からはおだやかな波の音が、ざアーア、ざアーアと云うように間遠まどおに聞こえていた。それはもうこくに近いころであった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一月元日 由比ゆいはま散歩。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
由比ゆいの浜べを右に見て
鎌倉 (新字新仮名) / 芳賀矢一(著)
しかし彼の軍は、由比ゆい蒲原かんばらで破れ、富士川でも全敗した。直義はついに鎌倉を出、足柄山の険に立った。彼の形相ぎょうそうももう以前の直義ではまったくない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女が始めて由比ゆいはまの海水浴場へ出かけて行って、前の晩にわざわざ銀座で買って来た、濃い緑色の海水帽と海水服とを肌身に着けて現れたとき、正直なところ
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
東海道ならば由比ゆい蒲原かんばら興津おきつの山々、焼津やいづに越える日本峠のように、汽車の響きと煙で小鳥をおびやかし、さらにいろいろの方法をもって捕獲を試みる所が、年を追うて増すばかりである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)