田楽女でんがくひめ)” の例文
元々は当家お抱えの田楽女でんがくひめだ。そして、おぬしがひそかに咲かせよう心でいたつぼみだった。十一年前の花盗人が、それを返しに来たような巡り合せか。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、いつも心のすみのどこかには、前身のひけめが住み、田楽女でんがくひめ藤夜叉ふじやしゃがまだ息づいていたのである。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眉目みめはよし、芸もよし。鎌倉の白拍子、田楽女でんがくひめ数千といわるるが、かほどな者はよもおるまい。道誉はなぜ、今日まで、藤夜叉をこの高時に見せずにおいたか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、自分の召抱えている田楽女でんがくひめの……それも小娘ずれのそなたにだけは、したたか、道誉の沽券こけんをきずつけられた。忘れようにも、ともすれば、忘れられぬ
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さればよ、理窟はないでもない。元々、藤夜叉は当家が抱えていた田楽女でんがくひめだ。いわば高氏が当家から奪ったものよ。それを奪い返しても、苦情はないはずと、考えていた」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、君仕くんじしているが、生母の藤夜叉をみる目には、前身の田楽女でんがくひめといういやしみが、たれの潜在意識にも多かれ少なかれあった。そして、しぜん不知哉丸までが、母の彼女を
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそらく、今は女ざかりのれ頃にあるであろうが、以前のおさな田楽女でんがくひめの藤夜叉を思うだけでも、彼の中には、ぼつ然と、かつての猥情わいじょうが再燃していた。それも往年の比ではない。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれ、お目はどこに。ホホホホ、いま舞台で舞っているあで田楽女でんがくひめのことですのに」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからこのさとの里子のかたちで、これらのひとに哺育ほいくされてきた不知哉丸は、たとえそれが主君高氏の隠し子であるにせよ、よしまたその生母が、卑賤な田楽女でんがくひめであろうとも、やがては
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)