無之これな)” の例文
落命致させては、其甲斐、万が一にも無之これなかる可く候。何卒泥烏須如来に背き奉り候私心苦しさを御汲み分け下され、娘一命、如何にもして、御取り留め下され度候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
老の餞別せんべつとしてお差添え申し候者は拙者娘にて無之これなく、常々御許の生けるが如く思われし人の再生せしと思召し候え、当人は素より望むところ、それゆえに名も椙江と改め候。
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
尤も身熱しんねつ烈しく候へば、ほとんど正気無之これなていに相見え、いたいけなる手にて繰返し、繰返し、くうに十字を描き候うては、しきりにはるれやと申す語を、うつつの如く口走り、其都度つど嬉しげに、微笑ほほゑみ居り候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)