泥濘ぬかる)” の例文
原っぱはいつもそこにあり、池はいつもそこにあり、径はいつも泥濘ぬかるみ、校舎も柵も位置を動かない。道の長さが変る筈もない。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
泥濘ぬかるむ夜道をものともしないで、夜目にもチラチラなまめかしく緋縮緬の裾を蹴返しながら、川越街道を、逆に江戸へ江戸へ、と
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
その真黒な焦土こげつちが、昨夜来の降雨のために、じとじと泥濘ぬかるんでいるので、その上には銀色をしたくらのような形で、中央の張出間アプスが倒影していた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
我等が獄中呻吟しんぎんの日々に於けるツシタラの温かき心に報いんとて 我等 今 この道を贈る。我等が築けるこの道 常に泥濘ぬかるまず 永久とはに崩れざらん。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
胴を離れた首は、雨にたたかれて、見ている間に臙脂えんじ色のあぶらを泥濘ぬかるみにひろげ、蝋よりも青いものになった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨は少し烈しくなって来て、道が泥濘ぬかるんできた。小太郎は、いつの間にか、跣足はだしになっていた。髪が乱れていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
霜解けで土はだいぶ泥濘ぬかるんで来ます。滑り加減の坂道を、靴のかかとを踏み立てゝは丸味を帯びながら川へ下って行く丘を川岸へだら/\と降りて行きました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
久し振りの水無月みなづき十三日の月輪を空に見たが、先頃から雨天がちに、下闇したやみはじめじめ泥濘ぬかるんでいるし、低い道には思わぬ流れが出来ていたりして、主従十三騎の落ちて行く道は
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)