水天宮すいてんぐう)” の例文
探偵と湯河とは中央郵便局の前から兜橋かぶとばしを渡り、鎧橋よろいばしを渡った。二人はいつの間にか水天宮すいてんぐう前の電車通りを歩いていたのである。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其容子を見て居た人は、デカを可愛がる人であったので、デカを連れ込んで、水天宮すいてんぐう御符おふだなど飲ましたが、駄目であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
尾花屋を駕籠で出て、永代橋を渡ったところで下り、水天宮すいてんぐうの近くでつじ駕籠に乗ったが、それも京橋八丁堀で下りた。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうして水天宮すいてんぐう前の大きな四つつじ鎧橋よろいばしの方に向いて曲ると、いくらか人脚ひとあしが薄くなったので、頬を抑えながら後から黙っていて来たお宮を待って肩を並べながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
梵文ぼんぶんの経の一節を刻んであるインド渡来の貝陀羅樹葉ばいだらじゅよう、それを二つ折りにして水天宮すいてんぐうの守り札と合わせたものがその袋の中から出て来た。古人も多く旅に死せるありとやら。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
芝赤羽根しばあかばね海軍造兵廠かいぐんぞうへいしょうの跡は現在何万坪という広い閑地になっている。これは誰も知っている通り有馬侯ありまこう屋舗跡やしきあとで、現在蠣殻町かきがらちょうにある水天宮すいてんぐうは元この邸内にあったのである。
東京では虎の門の金毘羅様こんぴらさまと、蠣殻町かきがらちょう水天宮すいてんぐう様とが競争者で、一方の縁日がお天気なら他の一方は大抵雨が降るといいますが、たといそんなはずはなくても、なんだかそういう気がするのは
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
千住大橋でおりて水天宮すいてんぐう行の市電に乗った。乗客の人種が自分のいつも乗る市電の乗客と全くちがうのに気がついて少し驚いた。おはぐろのような臭気が車内にみなぎっていたが出所は分からない。
猫の穴掘り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
問『水天宮すいてんぐうもうすのも矢張やはり……。』
もう、あの美しい錦絵にしきえのような人形町の夜のちまたをうろつく事は出来ないのか。水天宮すいてんぐうの縁日にも、茅場町かやばちょうの薬師様にも、もう遊びに行く事は出来ないのか。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その夜も躯じゅうが酒臭くなるほど飲み、水天宮すいてんぐうの近くの安宿へ、倒れ込むようにして泊った。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人形町の水天宮すいてんぐう前から鎧橋よろいばしを渡り、繁華な町中の道を日影町へと取って芝の公園へ出、赤羽橋へかかり、三田の通りを折れまがり、長い聖坂ひじりざかに添うて高輪台町へと登って行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)