黄金の十字架くるすを胸に懸けて、パアテル・ノステルを口にした日本を、——貴族の夫人たちが、珊瑚さんご念珠ねんじゅ爪繰つまぐって、毘留善麻利耶びるぜんまりあの前にひざまずいた日本を、その彼が訪れなかったと云う筈はない。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)