木綿糸もめんいと)” の例文
「それに、名人の半九郎が、五間や十間の近いところから射て、三人までも人を射損じる筈はございません。四文錢を釣つた木綿糸もめんいとを射切るといふ半九郎です」
彼女は今から四年前、僕が玄関に立ったままはかまほころびを彼女に縫わせた事まで覚えていた。その時彼女の使ったのは木綿糸もめんいとでなくて絹糸であった事も知っていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
合わせることになるわけで、女子おなごにもつとめが科せられるはずだとおぼえておる。十三歳から二十歳までの女一人に、一か月につき木綿糸もめんいと反分たんぶんを上納させるんですな——
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
明治の世の中もややのちになってからのことで、田舎ではみなさんのおかあさまぐらいの人までが、小さいころにはまだお正月に、木綿糸もめんいとを巻いてこしらえた手毬を突いていたのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
木綿糸もめんいといますがお米が中でふくれますからその詰め加減が工合ぐあいものです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
世の中は広いものです、広い世の中に一本の木綿糸もめんいとをわたして、傍目わきめも触らず、その上を御叮嚀ごていねいにあるいて、そうして、これが世界だと心得るのはすでに気の毒な話であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)