とう)” の例文
つまり、それ以前とうに、彼女はへやを出ていて、あらかじめこの事を予期していたために、水を用意していた——とも云えるだろう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
庭には小さいながらも池があつて、赤い黒い、尺許りの鯉が十ぴきも居た。家の前には、其頃村に唯一つの衡門かぶきもんが立つてゐた。叔父の家のは、とうに朽ちて了つたのである。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
伸子さん、とうに嵐と急迫の時代は去りましたよ。この館も再びもとのとおりに、絢爛けんらんたるラテン詩と恋歌マドリガーレの世界に帰ることでしょう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
日射ひざしは午後四時に近い、西向の校舎は、うしろの木立の濃い緑と映り合つて殊更に明るく、授業はとうに済んだので、たひらかな運動場には人影もない、夏も初の鮮かな日光が溢れる様に流れた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
では、久我さんのことばを借りれば——動機変転モチフ・ワンデル。ねえ、そうでございましょう。でも、そんな隈取りは、もうとうに洗い落してしまいましたわ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ずつと隔つた處にゐて、とうから天理教に歸依してるといふ事は、豫て手紙で知つてもゐ、一昨年の暮弟の家に不幸のあつた時、その親戚からも人が來て重兵衞も改宗を勸められた事があつた。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
僕はとうから、この事件の起るのが予期されていたのです。なぜなら、遭難の夜には、吾々四人を前に、屍体の消失というありうべからざる現象が起ったではありませんか。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ずつと隔つた処にゐて、とうから天理教に帰依してるといふ事は、かねて手紙で知つてもゐ、一昨年の暮弟の家に不幸のあつた時、その親戚からも人が来て重兵衛も改宗を勧められた事があつた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)