捲上まきあ)” の例文
暮れてから町々の提灯ちょうちんは美しくともった。すだれ捲上まきあげ、店先に毛氈もうせんなぞを敷き、屏風びょうぶを立て廻して、人々は端近く座りながら涼んでいた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其時そこに向いておろしてあったすだれ捲上まきあげたので、そなたを見ると、好き装束した女の姿が次第にあらわれた。簾は十分に上げられた。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すだれ捲上まきあげし二階の窓に夕栄ゆうばえ鱗雲うろこぐも打眺め夕河岸ゆうがし小鰺こあじ売行く声聞きつけてにわか夕餉ゆうげの仕度待兼まちかぬる心地するも町中なればこそ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
だん/\いでまいりますと、にわかに空合そらあいが悪くなりまして、どゝん/″\と打寄する浪は山岳の如く、舟は天に捲上まきあげられるかと思う間もなく
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
青いすだれが白房で半ば捲上まきあげられ、それを幾町が間か肩にかつぎあげずに静々と柳橋から蔵前通りへと練り歩かれた。
常雇じょうやといの作男で、納屋に寝泊りして働いているが、何でも少しばかりの借金の抵当かたに祖先伝来の田地を寅旦那に捲上まきあげられ、娘のお美代を売っても追っ付かないから
帰ろうとして外へ出た時、顔を黒くくまどり、腰布のうしろを捲上まきあげて臀部でんぶの入墨をあらわした一人の男が進み出て、妙な踊をして見せ、小刀を空高く投上げて、それを見事に受けとめて見せた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
不得要領に捲上まきあげらるべき性質の時計ではなかったのだ! 青年の恨みを、十分にめてたたき返さなければならぬ時計だったのだ! ことに、青年の手記のうちの彼女が、瑠璃子夫人であることが
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
牙と舌を剥出むきだして、犬ですね、ちんつらの長い洋犬などならまだしも、尻尾を捲上まきあげて、耳の押立おったった、痩せて赤剥あかはげだらけなのがあえぎながら掻食かっくらう、と云っただけでも浅ましさが——ああ、そうだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人の富豪から莫大な金を捲上まきあげたのだった。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
常雇じやうやとひの作男で、納屋に寢泊りして働いてゐるが、何んでも少しばかりの借金の抵當かたに祖先傳來の田地を寅旦那に捲上まきあげられ、娘のお美代を賣つても追つ付かないから
その証文めんの百という字の上に三の字を加筆いたし、いや百両ではない、三百両だ、もう二百両持って来なければ女房を返す訳にはかぬと云って、只百両の金を捲上まきあげてしまいました
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)