拭布ふきん)” の例文
寛子は二階からぎくしゃくした茶餉台を持って降りて、濡れ拭布ふきんでごしごし拭くと、茶碗をならべ始めた。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
おくみは袋戸棚の抽斗ひきだしから、おかみさんにさし上げるお茶碗を出して拭布ふきんをかけながら言つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
権右衛門の盃に酒をつぎ、こぼれたのを拭布ふきんでふきながら、さり気なく言った。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
拭布ふきんを掛けたなり台所へ突出すと、押入続きに腰窓が低い、上の棚に立掛けた小さな姿見で、顔を映して、襟を、もう一息掻合わせ、ちょっと縮れて癖はあるが、髪結かみゆいも世辞ばかりでない
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ながしところに、浅葱あさぎ手絡てがらが、時ならず、雲から射す、濃い月影のようにちらちらして、黒髪くろかみのおくれ毛がはらはらとかかる、鼻筋のすっととおった横顔が仄見ほのみえて、白い拭布ふきんがひらりと動いた。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)