抽匣ひきだし)” の例文
箪笥の抽匣ひきだしにあちこち分けてしまってある幾つもの縞の財布には、それぞれ少しずつ小金を貯めているといったささやかな女地主の婆さんの一人で。
母に言付けられて、お俊は次の間に置いてあるきりの机の方へ行った。実の使用つかっていた机だ。その抽匣ひきだしの中から、最近に来た父の手紙を取出した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
廊下の方に耳を澄ましながら、吉里は手箪笥の抽匣ひきだしを行燈の前へ持ち出し、上の抽匣の底を探ッて、薄い紙包みを取り出した。中には平田の写真が入ッていた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
私の書斎のいろいろながらくた物などいれた本箱の抽匣ひきだしに昔からひとつの小箱がしまつてある。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
机の抽匣ひきだしから古びた鵬翼ほうよくの袋を取出し、それからたなの上のラジオにスイッチを入れるのだった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
細君はいいにくそうに、箪笥たんす抽匣ひきだしにしまって置いた自分の着物と帯を質に入れた顛末てんまつを話した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このいろんな仕切りのついた上置うわおきをそっくり取りのけると、その下には半切の用紙がぎっしり詰まっており、手箱の横腹には金子かねを入れておく、小さな秘密の抽匣ひきだしがついている。
「みんなあの人に関係した書類なんだそうです。健三に見せたら参考になるだろうと思って、用箪笥ようだんす抽匣ひきだしの中にしまって置いたのを、今日きょう出して持って来たっておっしゃいました」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丑松はまた、友達が持つて来て呉れた月給を机の抽匣ひきだしの中へ入れて、其内を紙の袋のまゝ袂へも入れた。尤も幾許いくら置いて、幾許自分の身に着けたか、それすら好くは覚えて居ない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ええ大丈夫よ、ほら、あそこの抽匣ひきだしに鍵かけて収めて置くからもう大丈夫よ。
恐怖教育 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
行燈は前の障子が開けてあり、丁字ちょうじを結んで油煙が黒くッている。ふたを開けた硯箱すずりばこの傍には、端を引き裂いた半切はんきれが転がり、手箪笥の抽匣ひきだしを二段斜めに重ねて、唐紙のすみのところへ押しつけてある。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)