御賽銭おさいせん)” の例文
木の葉を座敷にいたり、揚句あげくの果には、誰かが木の葉がお金であったらいいといったのを聞いたとかで、観音様の御賽銭おさいせんをつかみ出して、それを降らせたりしたので
寺内の奇人団 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
またはその小屋を焼く以前に年寄としよりたちが、御賽銭おさいせんをもって御参りする村があるのである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
浅草へ行く積りであったがせっかく根岸で味おうた清閑の情を軽業かるわざの太鼓御賽銭おさいせんの音にけがすが厭になったから山下まで来ると急いで鉄道馬車に飛乗って京橋まで窮屈な目にあって
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
柏手かしわでを打って鈴を鳴らして御賽銭おさいせんをなげ込んだ後姿が、見ているにこっちへ逆戻ぎゃくもどりをする。黒縮緬くろちりめんがしわの紋をつけた意気な芸者がすれ違うときに、高柳君の方に一瞥いちべつ秋波しゅうはを送った。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うんと御賽銭おさいせんをせしめてやがる。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ小野さんは勝手な神に恋の御賽銭おさいせんを投げて、波か字かの辻占つじうらを見てはならぬ。小野さんは、この黒い眼から早速さそくに放つ、見えぬ光りに、空かけて織りなした無紋の網に引き掛った餌食えじきである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)