形而下けいじか)” の例文
わが輩は凡人のなさけなさに、形而下けいじかの話をして夢を物とみなして長々しく弁じたが、形而上けいじじょうの思想の存在するをまったく心得ぬわけでもない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
哲學的に思索もする。要するに彼は、形而下けいじかから、また形而上から自然の本體を探ツて、我々人類生存の意義をあきらかにしようと勤めてゐるのであツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
もちろん形而下けいじかの変化はありますけれども、形而上の気質に於いて、この都会は相変らずです。馬鹿は死ななきゃ、なおらないというような感じです。
メリイクリスマス (新字新仮名) / 太宰治(著)
すべて今の世の学問は皆形而下けいじかの学でちょっと結構なようだが、いざとなるとすこしも役には立ちませんてな。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
透谷と思想の傾向を同ふするもの僕等を形而下けいじか派とのゝしるに至れり。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
形而下けいじかの物質界にあってすら、——相当の学者が綿密な手続を経て発表した数字上の結果すら、吾々はただ数理的の頭脳にのみもっともと首肯うなずくだけである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
形而下けいじかの世にあると、形而上けいじじょうの世にあるとは、物を夢と見なすのと、夢を物と見なすの差があろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
私は形而下けいじか的にも四肢を充分にのばして、そうして、今のこの私の豊沃ほうよくを、いったい、誰に教えてあげようか、保田與重郎氏は涙さえ浮べて、なんどもなんども首肯うなずいて呉れるだろう。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただ上部うわべだけはいかにも静である。もし手足しゅそくの挙止が、内面の消息を形而下けいじかに運びきたる記号となり得るならば、この二人ほどに長閑のどか母子おやこは容易に見出し得まい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
月給等の形而下けいじかのことをのみ欲するを理想と呼ぶのはだいなる誤りであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)