巫山ふざん)” の例文
桃源、巫山ふざん、蓬莱洲、いわゆる世界の別天地とはこんなものではあるまいか? こう思われるほど四辺の光景は気高く美しい物であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
素袍すおう、狩衣、唐衣、あやと錦の影を交えて、風あるさまに、裾袂、追いつ追われつ、ひらひらと立舞う風情に閨をめぐった。巫山ふざんの雲にかけはしかかれば、名もなき恋のふちあらむ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれは平中の心の中には、何時いつ巫山ふざん神女しんによのやうな、人倫じんりんを絶した美人の姿が、髣髴はうふつと浮んでゐるからだよ。平中は何時も世間の女に、さう云ふ美しさを見ようとしてゐる。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一〇〇巫山ふざんの雲、一〇一漢宮かんきゆうまぼろしにもあらざるやとくりごとはてしぞなき。
「曾て滄海を経て水たりがたく、巫山ふざん除却じょきゃくしてこれ雲ならず」
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
我等亦多言するをもちひずといえども、其の明治大正の文芸に羅曼ロマン主義の大道を打開し、えん巫山ふざんの雨意よりも濃に、壮は易水の風色よりも烈なる鏡花世界を現出したるはただに一代の壮挙たるのみならず
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
道々洞庭や三峡や、巫山ふざんなどで悠遊した。
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)