いら)” の例文
三番ののぼり汽車で旦那様は御帰になりました。御茶を召上りながら長野の雪の御話、いつになく奥様も打解けて御側にいらっしゃるのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たちまち一歩引下り「おゝ御一緒に、今まで珈琲館にいらしッたのですか、私しは又用事で外へお廻りに成たかと思いました、あそんでお帰りなさるには余り遅過るじゃ有ませんか」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
町田さんといつまでも一緒にいられる様に立派な女にならうと思つても駄目。——やつぱり、此処に、元の巣に戻つて来る女なんだわ。それが一番自分の性に合つてゐるのよ。
疵だらけのお秋 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
この上長く此地にいられても詰りあなたの徳にもならずと、お辰憎くなるにつけてお前可愛かわゆく、真から底から正直におまえ、ドッコイあなたの行末にも良様よいよう昨夕ゆうべしかと考えて見たが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
旦那様は随分他人ひとにはひどくおあたりになりましても、貴嬢あなたさまばかりには一目いちもく置いていらしたのが、の晩の御剣幕たら何事で御座います、父子おやこの縁も今夜限だと大きな声をなすつて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お熊は松島の側近くひざを進めて「ほんとにねエ、さうして御両人おふたり並んでいらつしやると、如何どんなに御似合ひ遊ばすか知れませんよ——梅ちやん、貴嬢あなたも嬉しくていらつしやいませう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)