姥子うばこ)” の例文
関所の跡は、箱根町と元箱根の間に、今も桝形ますがたが残っているが、これを避けて姥子うばこへ回ると、湖尻こじりの手前に、もう一つ、小型の関所があった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
僕が昔し姥子うばこの温泉に行って、一人のじじいと相宿になった事がある。何でも東京の呉服屋の隠居か何かだったがね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これから武蔵へかかる山境やまざかいは、姥子うばこ鳴滝なるたき大菩薩だいぼさつ小仏こぼとけ御岳みたけ、四やままた山を見るばかりの道である。すきな子供のむれに取りまかれることがいたってまれだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最後の任務を果たすために、飯坂いいさか上等兵と姥子うばこ一等兵を選抜して、東京警備司令部へ、火急かきゅうの報告に出発させた。少尉が、腹部を射ちぬかれたのは、それから五分とたない後だった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
越後えちごの七ふしぎの一つなる弘智法印こうちほういんの寺などでも、毎年四月八日の御衣おころもがえという日に、もとは海べ七浦の姥子うばこたち、おのおの一つかみずつのを持ちよって、一日のうちにつむり縫って
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「お嬢様、これはいったい、何様なんでございますか。わしが若い時分日光へ参りました時、あれにお若様というのがありましたが、そんなんでもございません。箱根の姥子うばこには山姥の石像がございますが、それでもございません。染井の仙人堂には……」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まあ相宿だから呉服屋だろうが、古着屋だろうが構う事はないが、ただ困った事が一つ出来てしまった。と云うのは僕は姥子うばこへ着いてから三日目に煙草たばこを切らしてしまったのさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)