夜色やしょく)” の例文
御姫様はこう仰有って、一度は愛くるしく御笑いになりましたが、急にまた御簾みすの外の夜色やしょくへ、うっとりと眼を御やりになって
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夜色やしょくをこめた草原のはてを鞍上あんじょうから見ると——はるかに白々しらじらとみえる都田川みやこだがわのほとり、そこに、なんであろうか、一みゃく殺気さっき、形なくうごく陣気じんきが民部に感じられた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
判るさ、おいらはこれでも、漢詩の平仄しろくろを並べたことがあらあ、酔うて危欄きらんれば夜色やしょくかすかなり、烟水えんすい蒼茫そうぼうとして舟を見ず、どうだい、今でも韻字の本がありゃ、詩ぐらいは作れるぞ
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
門巷蕭条夜色悲 〔門巷もんこう蕭条しょうじょうとして夜色やしょく悲しく
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、そのほかは、北は千本せんぼん、南の鳥羽とば街道のさかいを尽くして、蚊やりの煙のにおいのする、夜色やしょくの底に埋もれながら、河原かわらよもぎの葉を動かす、微風もまるで知らないように、沈々としてふけている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いい終ると、屋外の夜色やしょくを、沁々しみじみ見て
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)