夕霞ゆうがすみ)” の例文
逃げ散る白い影を夕霞ゆうがすみの果てに見失うに至って、菊王もとたんにガクと気がゆるんだ。火みたいな息と一しょに、草むらに腰をついた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は元気よくこう答えると、もう若者には用がないと云ったように、夕霞ゆうがすみのたなびいた春の河原を元来た方へ歩き出した。彼の心の中には、今までにない幸福の意識が波立っていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
早や立ちこむる夕霞ゆうがすみ
枯葉の記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
生田いくたの馬場のくらうまも終ったと見えて、群集の藺笠いがさ市女笠いちめがさなどが、流れにまかす花かのように、暮れかかる夕霞ゆうがすみの道を、城下の方へなだれて帰った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
終日、生駒山を右に見つつ歩いた奈良街道は、やがて、河内平野の無数な川すじと、川にって営みしている部落部落の灯やら野の灯を、しずかな夕霞ゆうがすみの下に見出だす。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部落部落は、かがりを焚いていた。高いところから見ると夕霞ゆうがすみが赤く虹のように地を染めていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大島初島も、すでに紅い夕霞ゆうがすみの奥となって。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕霞ゆうがすみと共に都の内まで尾を曳いて行った。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)