つり)” の例文
店先ではちょうど小僧がつりランプへ火をとぼして、夕暗の流れている往来へ、まだ煙の立つ燐寸殻マッチがらを捨てている所だったのでございます。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
八畳の間のつりランプの下でするのですが、その片隅に敷いた床の中で、ばらばらというかすかな音を聞きながら、いつしか私はねむるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
広びろした庭の小砂利こじゃりをふんで、セーラー服やつりスカートの少女たちが、三々五々つつましやかに歩き廻つてゐる。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
お島はそう言いながら、そこにあった花屑はなくずを取あげて、のそりとしている小野田の顔へたたきつけた。つりあがったような充血した目に、涙がにじみ出ていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
振り仰ぐと二階と言つても、揚幕一枚をブラ下げたむき出しのつり二階で、其處から火鉢を滑らせさへすれば、下に寢て居るお夢の頭の上に落ちるのは必然です。
店の人は、巳之助がゆびさした大きいつりランプをはずして来たが、それは十五銭では買えなかった。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
十四のトム公は、生活力をスリらした四十男をしりえに連れて、ぽかぽかと木靴を躍らして歩いた。矮短わいたんな体をズボンつりで締めて、メリケンがりの頭へがまいぼみたいに光る鳥打帽を乗っけている。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高座には明るいつりランプの下に、白い鉢巻をした男が、長い抜き身を振りまわしていた。そうして楽屋がくやからは朗々と、「踏み破る千山万岳の煙」とか云う、詩をうたう声が起っていた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
トム公は、ズボンつりをしめ上げて、両手をもって、青空を突いた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)