南地なんち)” の例文
その当時、最初はこの女一人であったがほどなく新橋南地なんち新布袋家しんほていやという芸者家からも、同じようなダンスを見せる女が現れた。
裸体談義 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あてお風呂い這入はいっててん。……此処ここなあ、南地なんちの料理屋で、内にお風呂あるよって。……」「ふうん、なんでまたそんなとこい行てたん?」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
で、これのみ巫女みこの手を借りぬ、容色きりょう南地なんち第一人。袴の色の緋よりも冴えた、笹紅ささべに口許くちもとに美しく微笑ほほえんだ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近頃菊池契月氏の評判がいゝので、悪魔の一にんはこの画家を誑かしにかかつた。つい、こなひだの事骨董屋は契月氏と一緒に大阪南地なんちのあるおほ茶屋で遊んだ。
呂昇は共楽会という南地なんちの演舞場に開催される、第一流の群れに投じようとし、播重は自分の席の専属にしてしまおうと、心までも肉体と共に自由にしようとした。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
浜子はもと南地なんちの芸者だったのを、父が受けだした、というより浜子の方で打ちこんで入れ揚げたあげく、旦那にあいそづかしをされたその足で押しかけ女房に来たのが四年前で、男の子も生れて
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
光子さんとそないなる前南地なんちで隠れ遊びしてたいうこと突き止めて、その方面調べてみたら、くろとの女でも一ぺん綿貫に引っかかったら大概なもん夢中になる
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
南地なんち九郎右衛門くろえもん町に住んでいたので九山村と云われた家柄の、二代目を受け継いだ師匠の住居であろうかと驚かれるような、そう云ってもびしい長屋のような家であった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)