千日前せんにちまえ)” の例文
「大阪の千日前せんにちまえ芦辺倶楽部あしベクラブというのが出来るそうで、師匠が出てくれるならば、月額千円は出すというのだそうだ。」
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一里が一丁に見えるおらんだ渡りの遠眼鏡というのは、これだ。何が見えた? ……千日前せんにちまえの原ッぱで、比丘尼びくにが踊りを踊ってるだろう? 嘘だ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどもよく聞いて見ると、知っているのは天王寺てんのうじだの中の島だの千日前せんにちまえだのという名前ばかりで地理上の知識になると、まるで夢のように散漫きわまるものであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寛延かんえん己巳年つちのとみどしの二月から三月にかけて、大坂は千日前せんにちまえに二つの首が獄門にけられた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は千日前せんにちまえをあるいて海女の手踊の看板を見た、髪をふり乱して、赤い腰巻をした海女の一群がベックリンの人魚の戯れの絵の如く波に戯れているのである、それが頗る下品な、絵であったが
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「低級娯楽で満足するならこの道頓堀には芝居小屋が並んでいるし背中合せの千日前せんにちまえには楽天地なんていう興行物のデパートメント・ストアがある。低級高級ともにこの辺が大阪趣味の中心地だね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
最もエロチックにして毒々しき教育のモチーフは、千日前せんにちまえを散歩するとざらにころがっていた。私の家が千日前に近い関係上、ひまさえあると誰れかに連れられて私はこの修羅場しゅらばを歩きまわった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)