劇場こや)” の例文
「折角の企てぢや、劇場こや乃公わしが何とか心配する事にしようが、出し物が大石なら、ついでに喜剣を河内屋に附き合つて貰つたらうぢや。」
そこで生蕃小僧は上手に轟さんに取入るか、又は影武者の生蕃小僧に脅迫状を出させるか何かしてあの劇場こやを買わせたのよ。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女は熊野通り二条下るにある熊野座という小さい劇場こやに、今年の二月から打ち続けている嵐扇太郎という旅役者とありふれた関係に陥ちていた。
身投げ救助業 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そこへ六区の劇場こやの連中を、順々に呼ぼうじゃないですか。面白い会になりますよ。——最初は、やっぱりK劇場ですかな。あんたの小柳雅子のいる……」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「そういえば、勝則君が、労働組合で、東京の、なんとかいう劇団を招ぶとかいいよったが、今度はおれの劇場こやは間に合わんわい。そう、いうちょいてくれんか」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
いやむしろ自作の影像イマージが歪められているのを見るに堪え難い気持すら味っていた。が、江口冴子がその残された幕に出ている限り、劇場こやを出ることは出来ないと思った。
夜の構図 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
劇場こやはちいさくとも中島座や寿座の方が、喜昇座より格がよいかにさえ見えた。浅草公園の宮戸座や、駒形の浅草座などは、あとから出来たもので、数はすけなかった。
トレープレフ さっさと古巣の劇場こやへ行って、気の抜けたやくざ芝居にでも出るがいいや!
劇場こやの方へ電話をかけてみたら、もうお芝居はトックにハネちゃって、呉羽さんと二人でお帰りになったって云うでしょう。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そやけど、そない芝居をするとなると、仕打の白井さんはあてにならんし、劇場こやから借りん事にはあきまへんぜ……」
新しい劇場こやが建つちゅうようなこた、敵も味方もない、若松全体のためにええことじゃけ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「一度ぐらいなら訳ありませんわ。小さな劇場こやですもの……いつもの通りの手順に遣るだけの事よ。チョロマかされたってタカが知れてますわ」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
劇場こやなら乃公わしが心配しよう。」それ迄黙つて二人の談話はなしを聴いてゐた実業家は、横つちよから口を出した。
先刻さっき、おれが、今度の浪花節名人大会の用件で、親方のところに相談に行ったら——劇場こやに行くなら「竹の家」に寄ってくれ、と頼まれた。お前に逢うたら、もう行かんでええ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
亡くなつた高田実は、道頓堀の劇場こやへ出る時には、いつも日本橋北詰きたづめにある定宿ぢやうやどへ泊つたものだ。
俳優やくしやの中村鴈治郎などもその一人で、彼はこの頃よく東京の劇場こやへ出るが、あの通りに白粉おしろいをべた塗りする職業しやうばいでありながら、一興行二十六日間一度だつてお湯に入る事はないさうだ。