ひい)” の例文
呆然ぼんやり縁側に立って、遠くの方を見ると、晩秋あきの空は見上げるように高く、清浄きれいに晴れ渡って、世間が静かで、ひいやりと、自然ひとりでに好い気持がして来る。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
大正元年暮の二十九日、雪の黄昏を眺めた私の心のやるせない淋しさ——それは世界を掩うて近寄り来る死の蔭のひいやりとしたあゆみをわれ知らず感じたのでした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ただ、その中をかい間ぐって、ときおり妙にひいやりとした——まるで咽喉のどでも痛めそうな、苦ほろい鹹気しおけが飛んでくるので、その方向から前方を海と感ずるのみであった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)