佇立ちよりつ)” の例文
われは佇立ちよりつしてアマルフイイのいりえを憶ひ起しつゝ、目を轉じて身邊を顧みれば、波のもて來し藻草と小石との間に坐して、草畫を作れる男あり。
或る人々らは此の小さな息子がそこに長い間佇立ちよりつしてゐるのを認めた。併し其眼が涙ぐんでゐるのを見出す程には、此少年に興味を持たなかつた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
自分は今昔の感に堪へぬといつた面持で暫くそこに佇立ちよりつしてゐた。それから、日本通運株式会社をたづねてみた。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
風静かに気沈み万籟ばんらい黙寂たるの時に、急卒一響、神装をらして眼前めのまへ亢立かうりつするは蓮仙なり、何の促すところなく、何の襲ふところなく、悠然泥上に佇立ちよりつする花蕾の
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
われは佇立ちよりつ時を移しつ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
われつて英人なる宣教師某と相携へて花を艶陽の中ばに観る。わが花を賞するの心はわが時を惜む情より多かりければ、花王樹下に佇立ちよりつする事やゝしばらくせり。某即ち怪んで曰く、何事の面白きぞ。
漫言一則 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)