人混ひとごみ)” の例文
一時間近く経って後、彼は再び人混ひとごみの中を分けて煙草の煙と共に漂って居た。露店が尽きて橋へ来た。彼は惰性で橋を渡ってしまった。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
そのうちにがんりきは、そーっと後ずさりをして人混ひとごみまぎれて扉のわきからこの席を抜け出でようとすると、上人が
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
葛籠つづら長持と違って、人のうちほうりッ放しに預けて来られるんじゃあなし、かばって持っていた日にゃあ、人混ひとごみの中だってうっかり歩行あるかれるんじゃあねえ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人混ひとごみをわけて、真直ぐにエレヴェーターの方に歩き出す前川の後から、チョコチョコと美和子が、追いかけて来て、一しょにエレヴェーターに乗ると、前川がためらいもせず
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鉄槌つちかついでいる鍛冶屋の徒弟は、そこでまた、親方の姿を見失ってしまい、人混ひとごみの中でキョロキョロしていたが、やがて親方はそこらの店で眼についた弄具おもちゃの風車を買って来て彼の前に現われ
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半蔵門の曲り角に立っている人混ひとごみを電光のようにすり抜けて、麹町の通りを一直線に、土手三番町へ曲り込んだと思うと、二葉女学校の裏手にある教会らしい小さな西洋館の前でピタリと止まった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
露地から出たが人混ひとごみにまじり、間もなく姿が見えなくなった。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
以前、まだ、獅子屋さんの話をきかないうち、筆者わたしは山の手の夜店で、知った方は——笑って、ご存じ……大嫌だいきらいな犬が、人混ひとごみの中から、大鰻おおうなぎの化けたようなつら
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと人混ひとごみなど歩く時、僕は時々思うことさえある。
半七雑感 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二人はぞろぞろ座席へ行く、人混ひとごみの中で別れた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
小一按摩の妄念も、人混ひとごみの中へ消えたのである。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)