かた)” の例文
どうしようかと惑ったように犬は私と妻の顔とをかたみ代りにうかがっていたが、ついに身を起して寝台の方へ近付いて行った。そして一跳躍すると寝台に飛び上った。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
つまらなそうに地面をかぎながら黒が立ち去っていったあとまでも忠相と泰軒の声はかたみにつづく。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして絵を岩の端しに離し、自分は傍らの大岩にもたれ加減に、狭い足場の許すかぎり、後ろへ身を退いて、俺と絵とをかたみ代りに眺め入る。彼も俺同様、あぶなっかしい位置に居るのだ。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
行々子よしきりが遠くで、近くで、かたみ代りに鳴いている。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
高札の下で勘次彦兵衛と落合った釘抜藤吉、これだけ洗い上げて来た二人の話をかたみに聞きながら磯屋の前まで来て見ると、門でもないがなるほど横手に柴折戸しおりどがある。
と言いかけて、ものおじしたように他の二人の顔をかたみに見くらべたのは、お畳奉行別所信濃守。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)