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二重外套
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にじゆうまわし
胡麻塩羅紗の地厚なる
二重外套を
絡へる
魁肥の老紳士は
悠然として
入来りしが、内の
光景を見ると
斉く胸悪き色はつとその
面に
出でぬ。
忽忙と
二重外套を
打被ぎて
出づる後より、帽子を持ちて
送れる妻は
密に出先を問へるなり。彼は大いなる鼻を
皺めて
年紀二十六七と見えて、
身材は高からず、色やや
蒼き
痩顔の
険しげに
口髭逞く、髪の
生ひ乱れたるに
深々と紺ネルトンの
二重外套の
襟を立てて、黒の中折帽を脱ぎて手にしつ。