一鶴いっかく)” の例文
と、小姓組の刑部友矩とものりが、家光の眸を導いた。家光は大勢の若者の中から、鶏群けいぐん一鶴いっかくをすぐ見出したらしく
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雞群けいぐん一鶴いっかくであった。然し昔と今とは時代がちがうから、病むとも死ぬような事はあるまい。義理にからまれて思わぬ人に一生を寄せる事もあるまい……。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
沼南は終始一貫清廉を立通たてとおした。少くも利権割取を政治家の余得として一進一退をすべて金に換えてあやしまない今の政界にあっては沼南は実に鶏群けいぐん一鶴いっかくであった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼らは皆小学校にも通われぬほどのあわれむべき貧児である。折からボーイス(Boyse)という一僧侶この場に来かかり、暫くこの遊びを眺めておったが、忽ちこの鶏群けいぐん中に一鶴いっかくを見出した。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
下宿と小路ひとつへだて製糸工場が在るのだ。そこの女工さんたちが、作業しながら、唄うのだ。なかにひとつ、際立っていい声が在って、そいつがリイドして唄うのだ。鶏群の一鶴いっかく、そんな感じだ。
I can speak (新字新仮名) / 太宰治(著)
頭巾ずきんの上に、笠をもかぶっているので、よくは分らないが三十にはとどくまい。端正な姿に細太刀もよく似合って、こんな淀川舟の中では、鶏群中けいぐんちゅう一鶴いっかくといえる気品もあらそえない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)