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卷煙草
私は
漸くほつとした
心もちになつて、
卷煙草に
火をつけながら、
始て
懶い
睚をあげて、
前の
席に
腰を
下してゐた
小娘の
顏を一
瞥した。
やがてお
柳の
手がしなやかに
曲つて、
男の
手に
觸れると、
胸のあたりに
持つて
居た
卷煙草は、
心するともなく、
放れて、
婦人に
渡つた。
番町の
旦那といふは
口數少き
人と
見えて、
時たま
思ひ
出したやうにはた/\と
團扇づかひするか、
卷煙草の
灰を
拂つては
又火をつけて
手に
持てゐる
位なもの