香奠かうでん)” の例文
いつも母の世話になるので、晴代は二十六日の法要の香奠かうでんにする積りで、自分の働いた金のうちから、一円二円とけておいた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「なに、大杉が百円。戯談ぜうだん言つちやいけない、あの男はまだ生きてるよ、香奠かうでんでなくつて一時にそんな金が大杉の手に入るわけがない。」
米屋の御隱居の話し相手ですとさ、あんな男に、未練も何んにもありやしません、百文の香奠かうでんだつて、出してやるものですか
それでも葬具さうぐ雜費ざつぴには二せんづつでもむらすべてがつて香奠かうでんと、おしな蒲團ふとんしたいれてあつたたくはへとでどうにかすることが出來できた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「蝋燭の土産て、妙やなア。香奠かうでんの返禮みたいやないか。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
始め位牌堂ゐはいだうより其下の戸棚迄とだなまでがらり/\と明放あけはなして見るに中にはふるびたる提灯ちやうちん香奠かうでんの臺など有り夫よりして臺所だいどころ部屋々々へや/\座敷の廻り次の間ちやの間納戸なんど雪隱せついんは申に及ばず床下迄も殘る隈無くまなく尋ぬる處へ茂助もいき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「これから社へ行つて香奠かうでんを借りてくるからね。」
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
「第一、親分の前だが、借金を返して香奠かうでんを持つて行つた御用聞に、御通夜おつやのお菓子代りだと言つて、包んだ小判が五兩」
「強請——ホ、ホ、そんなつもりで差上げるのではない。これはお玉の兄さんに差上げる世間並の手當と香奠かうでん——お前に上げるわけではありません」
扇屋から持つて來た香奠かうでんはたつた三兩、糝粉で拵へて息を吹込んだやうな、この上もなく美しい娘の命が、前後三十三兩で、扇屋の餌にされたわけだ。
一兩二分と香奠かうでんの一朱を懷の中で掴んだまゝ、ガラツ八は何も彼も呑込んで來たやうな顏をする外はありません。
お互によくも辛抱したものだと、我ながら佛樣のめえで感心してゐるところなんだ、——おつとどつこい、拜むのは御自由だが、香奠かうでんを忘れちやいけねえよ
それから、忌中きちうの家へ手ブラで行く法はないから、これは少しばかりだが香奠かうでんの印だ
「それぢや、これだけでも受けて下さい。ほんの私の寸志、香奠かうでんの代りだが——」
「線香の側、——香奠かうでんぢやありませんよ」