鉄錆てつさび)” の例文
鉄錆てつさびに似た生き血の香が、むっと河風に動いてせかえりそう……お艶は、こみあげてくる吐き気をおさえて、たもとに顔をおおった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
相変らず、はしッこそうな、キラキラした目付きをした長崎屋、結城縞ゆうきじまに、鉄錆てつさびいろの短羽織みじかばおりという、がっちりとしたなりで、雪之丞の鏡台近くすわると
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あめわずに、おせんぼうぱしったな豪勢ごうせいだ。こんな鉄錆てつさびのようなかおをしたおいらより、油壺あぶらつぼからたよなおせんぼうほうが、どれだけいいかれねえからの。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
鉄錆てつさびのような声で馬にものいっているが、その単調な語が留学生には分からない。馬の肩のところに頸圏クムメントが二つ並んで、そのさきが上を向いているのは、馬に一種の威容を保たせている。
玉菜ぐるま (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いま、部屋の中にもっているのは、むっとせっかえるような、鉄錆てつさびに似た人血のにおい……一党は、手さえ血でべとべとしている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
生き血の香は鉄錆てつさびのにおいに似ている。そいつがぷうん! と鼻をかすめるのだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)