諦念ていねん)” の例文
疑問に云っているがつまりは自らに肯定する云い方である。古代民謡は、ただ悲観的に反省し諦念ていねんしてしまわないのが普通だからである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
隻脚せっきゃく——だがその不自由さも今はK氏の詩情や憂愁を自らいたわる生活形態と一致させたやや自己満足の諦念ていねんにまで落ちつけたかに見うけられる。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
サラリイマンは、また現われて、諦念ていねんと怠惰のよさを説く。姉は、母の心配を思え、と愚劣きわまる手紙を寄こす。そろそろと私の狂乱がはじまる。
確かにそれだけ楽天的もしくは諦念ていねん的であったゆえではないであろうか。
日本文化と科学的思想 (新字新仮名) / 石原純(著)
慈悲よりは憤怒ふんぬを、諦念ていねんよりは荒々しい捨身しゃしんそそのかすごとく佇立ちょりつしている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
時に軽率な情念のそれをめぐって動くことをとめるすべはないけれども、より深い、恐らく心意の奥底で、大いなる諦めを結んでいた。不動盤石ふどうばんじゃくよどみの姿に根を張った石に似た雲のような諦念ていねんがある。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
これを当年のショペンハウエルにくらべるなら、所詮しょせん僕は不器量に相違ないゆえに、諦念ていねんして二人は一しょに歩いていた。
(新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「何しか来けむ」というような強い激越の調がなくなって、「現身の人なる吾や」といって、諦念ていねんの如き心境に入ったもののいいぶりであるが、併し二つとも優れている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)