蜜柑箱みかんばこ)” の例文
狭い勝手の揚げ蓋の隅に、古い蜜柑箱みかんばこがあって、その中に口の欠けた醤油注ぎや、ペンチや、ドライバーや、油じみた軍手や、ぼろ布が整頓せいとんされてある。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
よき折から京方かみがたに対し、関東の武威をあらはすため、都鳥をて、こうはねたかの矢をむなさきに裏掻うらかいてつらぬいたまゝを、わざと、蜜柑箱みかんばこと思ふが如何いかが、即ち其の昔
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこへ蜜柑箱みかんばこの中へ、餅を交ぜ入れて担いで来た男があった。近松勘六の下男の甚三郎だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三畳の隅っこに、蜜柑箱みかんばこが一つ、行灯あんどんが一つ、蜜柑箱は机の代りになるらしく、その上に硯箱すずりばこが置いてあって、箱の中には、手習をした塵紙ちりがみが二十枚ばかり重ねてあります。
あれこれ考えながらお座敷をいて、それから、お風呂をわかす。お風呂番をしながら、蜜柑箱みかんばこに腰かけ、ちろちろ燃える石炭の灯をたよりに学校の宿題を全部すましてしまう。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
半分はんぶんと立たぬに余の右側をかすめるごとく過ぎ去ったのを見ると——蜜柑箱みかんばこのようなものに白いきれをかけて、黒い着物をきた男が二人、棒を通して前後からかついで行くのである。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
米友は戸の節穴ふしあなからそっとのぞいていると、蜜柑箱みかんばこを枕にした折助が
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
バケツに水をんで帰ると、次に蜜柑箱みかんばこの一つから米、他の一つから麦を量り出して、ニュームの鍋へ入れ、もう一つのバケツといっしょに持って水道端へゆく。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)