蚰蜒げじげじ)” の例文
そのはずで、愛の奴だって、まさか焼跡の芥溜ごみためからいて出た蚰蜒げじげじじゃありません。十月腹を貸した母親がありましてね。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひま漏る風に手燭の火の揺れる時怪物のようなわが影は蚰蜒げじげじう畳の上から壁虎やもりのへばり付いた壁の上にうごめいている。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
当時紅葉は私に対して何時いつでも不在と称して面会を避けていた。蛇蝎だかつの如くでないまでも蚰蜒げじげじぐらいには嫌っていた。
その上得体も知れぬ虫がウジウジ出て来て、誰かの顔へは四寸程の蚰蜒げじげじあがったというので大騒ぎ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
まむし蝙蝠こうもりさそり蚰蜒げじげじ毒蜘蛛どくぐもなどを研究することを拒み、「実にきたない!」と言いながら、それらを闇のうちに投げ捨てる博物学者を、人は想像し得らるるか。
「そうかなあ。……しかし僕には昼間はこのとおり静かだからいいけれど、夜は怖い。ひどい風だからねえ、まるで怒濤の中でもいるようで、夜の明けるのが待遠しい。それに天井からは蜘蛛やら蚰蜒げじげじやら落ちてくるしね……」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
蚰蜒げじげじを打てば屑々になりにけり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
土地の高低を示す蚰蜒げじげじの足のような符号と、何万分の一とか何とかいう尺度一点張ものさしいってんばりの正確と精密とはかえって当意即妙の自由を失い見る人をしてただ煩雑の思をなさしめるばかりである。