虚栄みえ)” の例文
新柳二橋の大宴会は絶えない現状であるが、下層階級の娘たちの虚栄みえも、大抵あの辺を根拠として発展したものらしかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は眼に多少の文字ある駅夫などがかえって見苦しい虚栄みえに執着して妄想の奴隷となり、同輩互いに排斥し合うているのに、野獣のような土方や、荒くれな工夫が
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
『遊ぶ』といふ事、それは私にとつて、幾らか子供らしい虚栄みえも含まれてゐたのだつた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
彼の胸の底には、やはり佐野のお大尽で押し通していたいという果敢はかない虚栄みえがあった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
でも君、あっしアまったくのところ酷工面ひどくめんして婚礼するんだからね。何も苦しい思いをして、虚栄みえを張る必要もなかろうじゃねいか。ね、小野君あっしアそういう主義なんだぜ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一切見番まかせで、役員たちで世話をやくんですのに、お父さんのはそんな表立ったこともしず、集まったのは懇意な人だけで、あの虚栄みえっ張りに似合わない質素なものよ。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今の春よしを新規に名乗ることになったので、土地では新看板であり、お神専用の二階と下の廊下と別々に、二本の電話がひいてあり、家は小さくても、表を花やかに虚栄みえを張っていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
昨夜ゆうべの羽織や袴を畳んで箪笥にしまい込もうとした時、「其奴そいつは小野が、余所よそから借りて来てくれたんだから……。」と低声こごえに言って風呂敷を出して、自分で叮寧に包んだ、虚栄みえも人前もない様子が
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)