荒寥くわうれう)” の例文
ふなべりに触れてつぶやくやうに動揺する波の音、是方こちらで思つたやうに聞える眠たい櫓のひゞき——あゝ静かな水の上だ。荒寥くわうれうとした岸の楊柳やなぎもところ/″\。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
冬枯の庭園の輝く日さへ一としほ荒寥くわうれうを添ふるが中を、彼方此方あなたこなたと歩を移すは、山木の梅子と異母弟の剛一なり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今は室の内も放肆ほしいまゝな笑声と無遠慮な雑談とで満さるゝやうに成つた。それに、東海道沿岸などの鉄道とは違ひ、この荒寥くわうれうとした信濃路のは、汽車までも旧式で、粗造で、山家風だ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
番小屋を預かる男は塩を持つて、岡の上まで見送り乍らいて来た。十一月上旬の日の光は淋しく照して、この西乃入牧場に一層荒寥くわうれうとした風趣おもむきを添へる。見れば小松はところ/″\。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)