腹綿はらわた)” の例文
「でも、イヤな音でしたよ。人間一人、生命を取られる音というものは、大したことが無いようでも妙に腹綿はらわたにこたえますよ」
そして、何とも云えぬ醜怪な生きものが、刑事の腕をすり抜けて、鯨の腹綿はらわたの作る迷路の影へ逃込んで行った。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこは入り込んだ町で、昼間でも人通りは少なく、魚の腹綿はらわたや鼠の死骸は幾日も位置を動かなかった。両側の家々はなにか荒廃していた。自然力の風化して行くあとが見えた。
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
著物きものも縫ふ、はたも織る、糸も引く、明日は氏神うじがみのお祭ぢやといふので女が出刃庖刀を荒砥あらとにかけていささか買ふてあるたいうろこを引いたり腹綿はらわたをつかみ出したりする様は思ひ出して見るほど面白い。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この通りはからっ風が強いのか、ぼろ隠しのような布の下には重石おもしがつけてある。石は囚人を縛るような麻縄あさなわでからげてある。ぶた腹綿はらわたを焼いている煙が、もくもくと布の間から立ちのぼっている。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)