羽交はがい)” の例文
血死期のように叫ぶと、同じ鎖に繋がれている、二十四、五のだぶだぶのルパシュカを着た男を、とつぜん、後から羽交はがい締めにして
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
肩を斜めに前へ落すと、そでの上へ、かいなすべつた、……月が投げたるダリヤの大輪おおりん白々しろじろと、揺れながらたわむれかゝる、羽交はがいの下を、軽く手に受け、すずしい目を、じっと合はせて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
不意にかれはうしろから羽交はがいじめにされた。——いそいでかれはふりほどこうとした。——が、それは、かれの自分でつけた立廻りの手のように器用にそうは行かなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
この歌でも、鴨の羽交はがいに霜が置くというのは現実の細かい写実といおうよりは一つの「感」で運んでいるが、その「感」は空漠くうばくたるものでなしに、人間の観察が本となっている点に強みがある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼はもう一度雌に寄りそいなおしてから、首を羽交はがいの間に埋めた。
白い翼 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
……鳥見役、網差、両名立ちあいにてお鶴医者滋賀石庵しがせきあん羽交はがいの下をあらため見たところ、胸もと、……心の臓のまうえあたりに二の字なりの深創しんそうがある。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)