紫陽花色あじさいいろ)” の例文
暁のほのかな薄明りが、紫陽花色あじさいいろに格子づくりの、出入り口のあなたに隙けて見えたが、読経に余念のない宮家には、まだお気づきにならないようであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紫陽花色あじさいいろに降って来たので、その圏内へはいった時だけは、顔に白布をのっぺら坊のように垂らした、女怪のような早瀬の姿が、森の魔のように隠見して見えた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いつか日が暮れ夜となったが、十五夜の月が真丸に出て、しくものぞ無き朧月、明日は大方雨でもあろうか、かさを冠ってはいたけれど、四辺あたり紫陽花色あじさいいろに明るかった。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
キリキリと小車輪おぐるまの軋る、錐を揉むような幽かな音が、木立ちの間から聞こえて来、紫陽花色あじさいいろの暁の微光の中へ、片手に五歳いつつばかりの女のの手をひき、片手に不具車かたわぐるま手綱たづなをひいた
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その巨像の右と左に、青銅らしい香爐があり、紫陽花色あじさいいろをした太い煙りが、うねりながらもうもうと立ちのぼっていたが、開けられた戸口からこっちの部屋へ、太いたばのように流れ込んで来た。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)