紆余うよ)” の例文
松岡毅軒は「墓誌ノ銘ナキハ例ヲ帰震川きしんせんガ『亡児䎖孫ノ壙誌こうし』『寒花葬志』ニ取レリ。而シテ文ノ簡浄紆余うよナルコトほとんどコレニ過グ。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
左程さほどにもない距離に思われても、歩いてみると案外、紆余うよ曲折のあるのが山道の常で、日本左衛門の飄々乎ひょうひょうこたる姿を、沢辺さわべの向うに見ていながら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この「七曲ななまがり」といわれている街道は、昔、敵兵が攻めて来るとき、城の天主閣から、どの道に来てもわかるように、わざと紆余うよ曲折させたものだという。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その一筆一声いずれもただちに全体の精神を現わさざるものはなく、また画家や音楽家において一つの感興である者が直に溢れて千変万化の山水となり、紆余うよ曲折の楽音ともなるのである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
臨終の苦悶くもん紆余うよ曲折すると言い得る。あるいは行き、あるいはきたり、あるいは墳墓の方へ進み、あるいは生命の方へ戻ってくる。死んでゆくことのうちには暗中模索の動作がある。
そこでこれは大変だ、念力には感光作用もあるらしいということになったのだそうである。実際はもっと紆余うよ曲折はあったのであるが、結局すじはそういうことらしい。これでは話にもならない。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「冗談じゃない、どこに外力的な原因があるもんか。それに痙攣けいれんはないし、明白な失神じゃないか」今度は検事がいがみ掛った。「どうも君は、単純なものにも紆余うよ曲折的な観察をするので困るよ」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
紆余うよ曲折を経たのち、皇帝紛失の世評を防ぐため、窮余の一策に、本当の皇帝が発見されるそれまで、皇帝の身代りにここへ差し置かれることになったが、ツラツラ事後の事情を思い合わせるところ
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今の今まで、君の紆余うよ曲折的な神経が妨げていたんだぜ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)