知己しりびと)” の例文
親戚みよりもなければ知己しりびともない。で、お父様の死んだ今は、民弥は文字通り一人ぼっちであった。その上生活くらしは貧しかった。明日の食物さえないのである。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小林の知己しりびとでこのごろ政府からひどく睨まれている有名な某文学者の手になった翻訳である。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
貞之進も恐々こわごわ末席へ就いたが、あとで思うとあまり末席過ぎて両隣りが明いて居るため、かえって誰の目にも附くようで我ながらおぞましい、これにしても知己しりびとのひとりでも来ればと
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
この物語のはじめにちょいと噂をした事の有るお政の知己しりびと須賀町すがちょうのお浜」という婦人が、近頃に娘をさる商家へ縁付るとて、それを風聴ふいちょうかたがたその娘をれて、或日お政を尋ねて来た。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)