よう)” の例文
例えば昔日向国ひゅうがのくにの人は、ようというできものの出来た時に、吐濃峯とののみねという山に向ってこういう言葉を唱えて拝んだそうであります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
昔から懼れられた、肺炎やようちようの如き腫物は、黴を原料として製造せらるゝペニシリンにより、易く治療さるゝに至つたのは素人を驚かした。
「二年も前からようを患つて居たつていふから、人手にかゝつて死んだとすれば、町内の外科が下手人見たいなもので——」
じつは山寨やまの大親分さま宋公明そうこうめいというお方が、ようをおわずらいなすッたんで、はれもの医者の安道全を迎えに来たのよ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
罪あらば罪を得ん、人間の加え得る罪は何かあらん。事を決する元来ようるがごとし、多少の痛苦は忍ぶべきのみ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此年冬榛軒はようを病んだ。榛軒詩存に「天保七年丙申冬夜、病癰臥」の五律がある。「病夫苦長夜。一睡尚三更。風定林柯寂。月升烏鵲鳴。倦書背燈影。欹枕算鐘声。愁緒遣無地。通宵誦仏名。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「二年も前からようを患っていたっていうから、人手にかかって死んだとすれば、町内の外科が下手人みたいなもので——」
人々が驚いて体をみると、なんと、背なかの一部に、大きなはれものができていた。ようだったのだ。癰といえば、命とりである。呉用は愕然がくぜんとして言った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは尊氏がやって来た“ごう”そのままな縮図だわえ。人のからだではようだが、国にできれば地上の大乱そのものだ。身にこれを病むとはよくよくわしは宿命の子にちがいない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は先年、背なかの真ン中にようというものを病んだ。初めは豆ツブほどな腫れ物にすぎなかった。しかしそれは命トリの重症だぞといわれたとおり以後二ヵ月昼夜のた打ちまわった。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼のようはやはり命取りの癰だった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)