畏怖ゐふ)” の例文
眼の前の光景の陰慘いんさんさに、畏怖ゐふする前に、私は、私の過去の思ひ出が、激しく湧き出て來るのを抑へなければならなかつた。
雷のことを神鳴、鳴神といふのは、畏怖ゐふすべき神として上代人は体験してゐた。これは恐らく支那でも同じことであらう。
雷談義 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
柔和な顔付で凝つとそれを仰いでゐた和作の顔色は思はず変つた。人間性とはあまりに違ふ冷やかさを持つたものに対する驚きと畏怖ゐふとのまじつた顔色だつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
いや、敬意と云ふよりもむし畏怖ゐふを感じてゐた。お民は野や山の仕事の外は何でもお住に押しつけ切りだつた。この頃ではもう彼女自身の腰巻さへ滅多に洗つたことはなかつた。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こは何ぞ、「畏怖ゐふ」のともがられ寄せて我を圍むか。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
最初その祈祷を聽いたときには私はそれをいぶかつた。やがて、それが續いて調子が高まつて來ると、私はそれに感動し、遂には畏怖ゐふしたのであつた。