玉兎ぎよくと)” の例文
須原驛に着きしは、夜の九時頃なりしが、山中の荒驛くわうえきは早くも更けて、冷露れいろ聲なく玉兎ぎよくと靜かに轉ずるの良夜も更に人の賞するものなく、旅亭は既に戸を閉ぢたるもの多かりき。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
土地とち名所めいしよとはひながら、なか/\もつて、案内者あんないしやれて踏込ふみこむやうな遊山場ゆさんばならず。双六盤すごろくばんこと疑無うたがひなけれど、これあるは、つきなか玉兎ぎよくとのある、とおんなこと、と亭主ていしゆかたつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おもむろに庭樹をながめて奇句を吐かんとするものは此家の老畸人、剣をなでし時事をうれふるものは蒼海、天を仰ぎ流星を数ふるものは我れ、この三箇みたり一室に同臥同起して、玉兎ぎよくと幾度いくたび
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)