狸寝入たぬきねい)” の例文
旧字:狸寢入
海の表面の波は何やら騒いでいても、その底の海水は、革命どころか、みじろぎもせず、狸寝入たぬきねいりで寝そべっているんですもの。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
白雲はそれが当然狸寝入たぬきねいりだということを知り、同時にその入口から、脱ぎ捨てた草履ぞうりの狼藉ぶりを見て、前の室にすすり泣きしていた女の、寝乱れを思い合わせないわけにはゆかない。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
玄鶴は彼の計画も甲野の為に看破みやぶられたのを感じた。が、ちょっとうなずいたぎり、何も言わずに狸寝入たぬきねいりをした。甲野は彼の枕もとに婦人雑誌の新年号をひろげ、何か読みけっているらしかった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、これはまたつらい狸寝入たぬきねいり、陰陽、陰陽と念じて、わが家の女房と全く同様の、死んだ振りの形となった。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
狸寝入たぬきねいりをして待っていた七兵衛の枕許へ来たがんりき、そこでかぶとを脱ぐ。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)