といいながら、駒井は一学の手から提灯を受取って、汗牛充棟かんぎゅうじゅうとうの書物をいちいち見てあるきました。満足の色をおもてにたたえて——
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
およそ明治中葉以降芸者のことを書きたる小説汗牛充棟かんぎゅうじゅうとうもただならぬに、地獄白首のことを書きたるものに至つては晨星寥々しんせいりょうりょうたるの感あるは何ぞや。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
僕の本棚を見て貰いたい。日英米仏の探偵小説スパイ文学で汗牛充棟かんぎゅうじゅうとうただならない。ボーナスの半分が書籍代になってしまうから、妻から苦情が出る。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と言いましても、支那の著作物は文字通りの汗牛充棟かんぎゅうじゅうとうで、単に〈志怪の書〉だけでも実におびただしいのでありますから、容易に読破されるものではありません。
今日汗牛充棟かんぎゅうじゅうとうの歴史の書はあるけれども、まだまだ我々には学べば学ばるる新しい過去の知識が、しこたま潜んでいるということをこの地名の不可解が教訓しているのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何故なにゆえにかくもわれわれに働きかけてやまないか、——それはしばらくベートーヴェンの伝記から語らなければならないところであるが、ベートーヴェンの伝記は文字通り汗牛充棟かんぎゅうじゅうとう
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
すべて妓家の模様を書きしるせしもの既に言ひしが如く汗牛充棟かんぎゅうじゅうとうなればここには除けり。好奇の人左に掲ぐる図書について見玉はば、明治年間花柳風俗の変遷おのづから歴然たるものあらん
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)