朗々ろうろう)” の例文
朗々ろうろうたる詩吟しぎんの声が流れた。ところが、詩吟はそれっきりで、そのあと先生は、ひょいとたたみに両手をついて四つんばいになった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
卒業免状でも渡す時の様に、こえおごそかに新郎新婦を呼び出して、テーブルの前に立たせた。そうして媒妁は自身愛読する創世記そうせいきイサク、リベカ結婚の条を朗々ろうろうと読み上げた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
するとこのとき、その萩乃の忘れたことのないあの若い植木職の声が朗々ろうろうとひびいてきたのです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
洞庭湖どうていこ杜詩とし琵琶行びわこうの文句や赤壁せきへきの一節など、長いこと想い出すおりもなかった耳ざわりのいい漢文のことばがおのずから朗々ろうろうたるひびきをもっくちびるにのぼって来る。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
春吉君は、きりっとした声をはりあげて、朗々ろうろうと読み、未知のわかい先生に、じぶんが秀才であることをみとめてもらうつもりで、番のめぐってくるのを、いまやおそしと待っていた。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
「もっと声を大きくして漢文は朗々ろうろうとしてぎんずべきものだ、語尾をはっきりせんのは心がおくしているからだ、聖賢の書を読むになんのやましいところがある、この家がこわれるような声で読め」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ことに、あの朗々ろうろうたる美音びおんで、がらにもなくシューベルトの子守歌を一とくさり歌ってきかせたときなどは、満場まんじょう大喝采だいかっさいであった。だが、その温厚な大使も、僕にとっては、敵国人に違いはなかった。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)