最前さっき)” の例文
私の背後に突立った若林博士は、最前さっきからの通りの無表情な表情をして、両手をうしろにまわしたまま、私をジッと見下していた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこでいろいろ考えたのですが、丁度最前さっきの友達が死んで間もなくであったものですから、咄嗟とっさに思いついてその友達の話をすることにしたのです。
甲給仕 足下おぬしをば、大廣間おほびろまで、最前さっきから呼ばってぢゃ、さがしてぢゃ、尋𢌞たづねまはしてぢゃ。
「だって旦那、最前さっきおっしゃったでしょ、かね(金)のおちんこ」
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
最前さっきまでは粗末な着物を着た乞食姿で、土の上に倒れていた筈なのに、今は白い軽い絹の寝巻を着て、柔らかい厚い布団ふとんの中に埋もっている。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「こっちがお願いするといってるじゃねえか最前さっきから」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
皆この書物を読みながらそのお話しの通りに自分がたように思っただけで、本当は矢張り最前さっきからここに立ったままで
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
これは大変と吃驚びっくりして袋を調べて見ると、最前さっき美留女姫が鋏で切り破った穴が、袋の底に三角にいている。お爺さんはこれを見るとおこるまい事か——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
もっとも最前さっきのように若くは見えなかったが……眼の大きい……唇の小さい……二重腮の……耳輪の痕のある……成熟し切った女に見えたが……しかし
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……と同時に少年も私が読み終るのを待ちかねていたらしく、うつむいていた顔を上げたが、その眼は最前さっきの通り黒水晶のように静かに澄み切っていた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
最前さっき、ゴトーンといったのは何だったのか知らんと考えて見ましたが、もしかしたら僕の思違いかも知れないと思いましたから又、二階に上って来て母の顔を見ますと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は無言のまま、最前さっきから挟んでおいた体温器を取り出して、副院長の前にさし出した。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
イヤッ……これあどうも……最前さっきから平気で色眼鏡を外したり、僕と一緒に男便所へ入ったりされるから真逆まさかと思っておりましたが……ハハア……貴女あなたがサイ・メイ・ロン君の青紅嬢で
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……ところが又、こいつを聞くと同時に、最前さっきから捻じれるだけ捻じれていた吾輩の神経がモウと捻じりキリキリ決着のところまで捻じ上ってしまったから止むを得ない。モウこれまでだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
暇さえあれば亜米利加アメリカの新聞を読んで、色んな犯罪事件を研究するのを楽しみにしていたのですが、そのうちに最前さっきお話ししましたような事から、思いがけなく日本の新聞が手に入りまして
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
フト身体からだ中がゾクゾクと寒気立さむけだって来たようなので気がついて見ると、私はいつの間にか最前さっきの九州帝国大学精神病科の教授室に帰っていて、最前腰をかけていた回転椅子に、最前のように腰をかけて
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)