旨味うまみ)” の例文
「しかし旦那の前ですが、その平仄の合わねえところに何か旨味うまみがあるんじゃありますまいか。ともかくもちっと洗いあげてみましょう」
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
我は自殺の念の一種の旨味うまみあるを覺えて、心に又此念の生じ來れるを怖れたり。御館の廣き間ごと間ごとに、我はうらさびしき空虚を感ぜり。
小憎こにくいぐらいに巧みに使う旨味うまみはここだなと感服しつつ、これで盗賊なんだから呆れたものさと、自分の盗賊なることを忘れて考えこみました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と喋り出す舌先の旨味うまみ、何となく情愛のある話し振りは、喋って居る当人も、さぞ好い気持だろうと思われます。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
実にその趣味のつかまへ処はいふにいはれぬ旨味うまみがあつて抱一などは夢にもその味を知る事は出来ぬ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「しかし、あれも馬鹿でないからめる時があるだろう、いつわりの情から醒めてみねば、真実の旨味うまみがわからん、どのみち、真実なものが勝つのだから、あまり心配せんがよい」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
い声だ。たッぷりと余裕のある声ではないが、透徹すきとおるように清い、何処かに冷たい処のあるような、というと水のようだが、水のように淡くはない、シンミリとした何とも言えぬ旨味うまみのある声だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もう近いうちにお下りなら、江戸への土産によい女郎衆をお世話しよ。京の女郎と大仏餅とは、眺めたばかりでは旨味うまみの知れぬものじゃ。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)